米国時間2023年8月18日に日米韓共同声明が発せられた。ギクシャクしていた日韓関係を整え、日米韓の結束をアピールするアメリカの外交政策だ。アメリカから見れば、日韓両国は対中国政策の最前線にある同盟国だ。「朝鮮戦争70年間の休戦と日本の稀有な状態」で書いた通り、アメリカは国連朝鮮軍として在韓米軍を配置し、日本の横田基地を後方司令部としている。
なので、そもそも論で言えば、いまさらのお膳立てと言える。韓国の文在寅政権は、極めて極端な親中国・親北朝鮮路線をとった。ひたすら従順な対米従属路線の日本と相性が良いわけがなく、冷え切った日韓関係のどん底状態だった。尹錫悦政権に交代し、みるみるうちに関係は好転し、現在に至っている。アメリカからすれば、なんとか両国の内政条件が整い、対中国への姿勢を改めて表明する良い機会ととらえたのであろう。
今回の共同声明は三本だてになっている。(日本語訳など詳細は外務省ページ)
1 The Spirit of Camp David: Joint Statement of Japan, the Republic of Korea,
and the United States
2 Camp David Principles
3 Commitment to Consult
「Spirit」の中では、ストレートに中国の南シナ海での一方的な現状変更の試みや北朝鮮のミサイ開発などを批判している。また、「Principle」では、日米韓3カ国としての北朝鮮の非核化、ASEANの枠組みの支持、太平洋諸島フォーラムの支持、台湾海峡の安定を唱えている。
どの内容も日本にとっても何ら異論のない既定路線。そして、興味深く見えるのは、「Commitment to Consult」だ。「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」と外務省は訳している。「3カ国で一緒によく相談していきますよ」という短い声明だ。バイデン大統領談「毎年、首脳レベルで会談を行うほか、閣僚が定期的に会談することを約束した。ことしや来年だけでなく、この先ずっとだ」とNHKで報道されているのはこのせいだ。戦後の日韓関係の紆余曲折、友人であり、ライバルでもある韓国。78年経って、アメリカのお膳立てでやっとこれか…と感じるのは筆者だけであろうか。
Strait Times紙によれば、バイデン大統領は今年11月に予定されているAPECのタイミングで習近平氏と会いたいと記者に答えている。セオドア=ローズヴェルト大統領以来のアメリカ伝統の棍棒外交「大きな棍棒を携え、穏やかに話す( speak softly and carry a big stick) 」の定石を踏まえた動きに見える。
日本の今後はどうだろうか?岸田首相や外務省は、やれやれと感じているかもしれないが、日米韓の結束という大前提が揺らいでいた問題がやっと修正され始めただけであって、本当の今後の課題はこれからだ。一つの参考情報として、通常兵器のミリタリーバランスを見てみよう。(核バランスについては別途論じていきたい。)
下の図は Global Fire Power (https://www.globalfirepower.com/) のツールで、日米韓 (左側青) と中国 + 北朝鮮 (右側赤) の軍事力総合計を比較したものだ。日米韓合計で優位と考えられるのは Airpower、AFVs (Armored Flying Vehicle 軍用機) くらいのもので、その他は劣勢な数字になっている。日本にとって特に重要な海軍力でも、大きく劣っているようだ。
もちろん、この比較は数字で表現できる要素の単純合計の範疇にあるだろう。あくまで参考だ。しかし、それにしても、中国がこれだけ軍備を増強しているのだと実感せざるを得ない。そして、いまや製造業を発展させ、世界一の生産力を持っている。仮に総力戦になったら、ひとたまりもないのは日本だ。もっと大きな「棍棒」を用意してきているのは中国の方かもしれない。
日本の安全保障という観点での今後の外交はどうすべきだろうか?韓国は歴史的にも対中国政策が揺れ動く国であり、盤石とは言えない。なんとなくはこれまでもやってきてはいるが、日本はASEAN諸国や太平洋諸島フォーラム国 (フィジー、トンガ、パラオなどオーストラリアとニュージーランドを含め16カ国) を大切にすべきだろう。ことに日本はそもそも島国なのだから、同じような島国としての悩みを深く共有し、協力できるはずだ。フィリピンやインドネシアといった大国をもっと重視すべきだろう。
日本が今すぐできて、また実際そうすべきなのは、こうした近隣諸国と友好な協力関係を深め、もしもの時に少なくとも国連で行動を共にできる国を一つでも多く作ること、そして、いざという事態が起こったら、少しでも助けてもらえる国を一つでも多く作ることではないだろうか。人材交流、技術支援、共同研究などお金だけではないつながりが大切で、長年のJICAの実績の通り、日本は実は得意なはずだ。敵基地攻撃能力のためにアメリカからミサイルを買い込むのはそこそこにして、長期的な国益のための地道な努力にもより力を注ぐべきだろう。