イスラエル-ハマス戦争の行方

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 イスラエルやパレスチナの問題について書くのは、とても難しい。たまたま筆者は2014年に観光でイスラエルを周遊した。その時に肌で感じたイスラエルと、報道を通して、わたしたちの目に映るイスラエルとはあまりにも異なり、違和感を感じた。調べているうちに、やはり、これはかなり大きな出来事で世界全体を巻き込むリスクがあること、また、偏った報道をしてしまっているマスコミが多く、表面的にうのみにしてはならないことを強く感じている。

 2023年10月7日にハマス武装集団による1,400人以上の市民に対する蛮行と虐殺、約200人の誘拐が行われた。その後、2週間ほどの間で、ハマス側からイスラエルへのミサイル発射は約5,000発。イスラエルからガザ地区への空爆も約5,000箇所。イスラエル側は、もっと多くの目標を攻撃したいところだが、一般市民への影響を考慮し抑えている、というロイターの報道もある。

 ハマスの「神との契約」にはユダヤ人を殺し、イスラエル国家を消滅させることが書かれている。ハマスは、ユダヤ人を宗教を理由にして殺そうとしているのではない。彼らは、シオニズムを否定し、受け入れない立場だ。遡ればバルフォア宣言、そして国連決議によるパレスチナ分割案、オスロ合意で示される二国共存を受け入れていない。イスラエル建国によって土地をさったパレスチナ人は、神に与えられたもとの土地にもどるべきことを主張している。

 第二次大戦直後、パレスチナ「難民」は70万人程度だった。1950年以来、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が難民へ人道的支援を今日まで続けてきている。難民認定は世襲できることもあってか、その数は現在500万人を超えると言われている。( 難民の地位を持ちながら海外で経済的成功を収めている人たちもいるという。) パレスチナの国としてのステータスはグレーゾーンで、国連ではオブザーバー国家だ。原理主義的テロ集団ハマス、それが実効支配するパレスチナ・ガザ地区、イスラエルが占領を続けるヨルダン川西岸地区、ハマスの台頭に対して緊急事態宣言を出しているパレスチナ暫定自治行政府。このチグハグ状態は違和感というより、驚きを生じさせる。

 これまでもハマスによるイスラエルへのテロ活動はたびたび起こった、しかし、あくまで小規模だった。今回は違う。多数の組織化されたハマス兵士が、大規模にイスラエル領内に展開し、蛮行・虐殺と誘拐を行った。イスラエルは、そして世界は二桁、三桁違いの規模にショックを受けた。なので、イスラエルはテロに対する戦争だとしている。その上、このハマスの行為は、恐怖や悲しみ、そして怒りや憎しみをネットを使って世界中に波及させる意図が明らかで、今のところそれに成功している。The Free Press 主宰の Bari Weiss氏の表現を借りれば、ナチスによるホロコーストは戦後になって初めて明るみに出たが、今回のハマスによる虐殺はリアルタイムで世界中に拡散されるという特異性を持っている。これは単にイスラエルへの攻撃ではなく、日本を含む西側世界の中に分断をもたらそうとするテロ活動だ。いくら何でも、こうした行為は行き過ぎだ。

 最初のテロ被害を受けたイスラエルを支持するのか、それともハマスが基盤とするパレスチナを支持するのか、はっきりと世論を二分しているありさまに筆者は驚いている。マスコミもSNSも左派的なグループと右派的なグループとの間に真反対の認識と見解の相違がある。まるでリトマス試験紙のように、この件の意見を聞けば、どちらの立場なのか瞬間的にわかる。

 欧米・西側の多くの反応で奇異に感じることは、左派的な立場の人々がパレスチナ擁護とイスラエル(+アメリカ)非難のバイアスで今の状況を見ていることだ。カザ地区のパレスチナの人々が被害を受け人道的危機にある、これはガザ地区を占領するイスラエルが原因だ ( 2005年にイスラエルはガザから完全撤退、イスラエル入植者も強制的にガザから退去している ) 、なので (ハマスへの非難はせずに) イスラエルは停戦せよなのだ。このブログを書いている今もおそらくハマスからイスラエル領内にロケットが撃ち込まれているのにである。

 筆者はこれを左派的な主張と親パレスチナ・反イスラエルの表層的な図式が融合していると見ている。マスメディアまでこのバイアスに囚われているのは、ガザ地区に戦禍にカメラを入れて「絵になる」ことも作用していることだろう。SNSでは、フェークニュースが出回っている。欧米の若者は、Wokeismを延長させ、すべての問題は過去の西欧諸国の帝国主義に原因があるという一面的な図式を当てはめているように感じる。滑稽なのは、LGBTのグループが親パレスチナを説いていることだ。敬虔なイスラム教信者であろうハマスやPLOの指導部に、LGBTの権利を向上させる気があるか、直接聞いてみた方がよい。

 1947年の国連のパレスチナ分割・二国家共存の勧告がなされて以降、パレスチナを含むアラブ諸国とイスラエルとは過去に何度も戦争を行なってきた。19世紀以降の様々な歴史的事実を振り返れば、どちらにも「言い分」「正当性」の論拠があるだろう。ただ1947年以降の諸国の発展も目覚ましいものがあった。石油を筆頭にエネルギー資源で多くのアラブ諸国が驚異的な繁栄を享受するようになったのは、第二次大戦後のことだ。同じ期間で、イスラエルは農業を振興し、技術を向上させ、中近東のシリコンバレーを作り、人口900万人の国家に成長した。こうした中で、イスラエルとアラブの国々との宥和の風も吹き始めた。こうした大きな潮流の中でパレスチナは取り残された。

 パレスチナの積年の不満とアラブの大国イランのイスラム原理主義が融合したのが、今回のイスラエルとハマスの戦争の背景にある。イランやハマスから見れば、事を起こすには千載一遇のチャンス、「今」なのだ。第一に、世界中がコロナ禍からの病み上がりの状況だ。西側諸国は、戦時経済でもないのに公的債務を歴史的高水準に積み上げてしまった、第二に、イラク戦争以降、中東外交政策で失敗を続けた米国は、アフガン撤退で最大の弱みを見せた。現バイデン政権は優柔不断の不手際な撤退で70億ドル、今の為替で1兆円近い軍備をみすみすアフガニスタンに置いいくという大失態を演じた。加えて、昨年からのウクライナ・ロシア戦争で代理戦争を煽る米国の姿勢も世界的に見て不評だ。第三に、欧州を見れば、欧州もウクライナ戦争で疲弊している。そして第四に、イスラエルの内政も司法制度に関するネタニヤフ政権の強硬な姿勢が、国民を二分している。

 ハマスによる今回の蛮行と大虐殺は、従来の単発の小規模テロとは異質のものだ。イランによるハマス支援の成果と見るべき。レバノン領内には別のテロ組織へズボラも潜む。10万発以上のロケット弾をイスラエルに向けているという。こうした状況から、アメリカは2つの空母打撃群を地中海東海岸沖に展開し、テヘランも射程範囲に収めた。こうした中で、ハマスはプロパガンダを展開し、世界の世論の分断を謀っている。忘れてならないのは、この10年ほどの欧州内の変化だ。累計で1,000万人以上の中東からの移民を受け入れた。彼らは、アラブ、パレスチナに同情的なはずだ。

 イスラエルは間違いなくガザへの地上侵攻作戦を行うだろう。自国に飛来するミサイルを止めなければならない。ガザ市民への被害も残念ながら更に大きくなるだろう。表面的な主義やイデオロギーで世界中が分断すれば、それこそがハマスやイランの狙うところであることを認識すべきだ。

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