イスラエル vs. ハマスの戦いと背後のイラン

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 テロ集団ハマスによるイスラエル市民への蛮行虐殺と誘拐の事件から1ヶ月以上が経過した。ハマスの地下司令部の上に建つというアル・シファ病院にイスラエル軍が到達した。マスコミ報道とSNS情報は、真っ向から矛盾する戦況情報で溢れていて、現地のその場にいない限り、何が正しいのかわからない状況になっている。スマホの画像・映像がネットで即時に拡散される時代での戦争がどんなものであるかは、ウクライナでの戦争で私たちは経験し始めている。それ以上に、10月8日に始まったイスラエルのハマスに対する戦争では、瓦礫のなかで苦しむパレスチナの人々の映像が毎日流されている。一部にはウソの負傷を演じた動画も見た。戦地での惨状が真実の光景であるなら、それを徐々に見慣れて、感覚が麻痺しているのではないか?という自問も生じざるを得ない。

 ハマスの行動の基盤となる考えはジハードだ。一般的な説明を「世界史の窓」に求めた。(本来の正統イスラム法学での「ジハード」は決して暴力的なものではなく、内面精神的なものだとする追加的説明をする文献もある。)

ジハードは、イスラーム教およびイスラーム教徒(ムスリム)を迫害する不信心者(異教徒)との戦いをことで、ムハンマド時代のメッカとの戦いから続いている。特に正統カリフ時代には、シリア・パレスチナのユダヤ教徒やキリスト教徒、ササン朝ペルシアのゾロアスター教徒などとの戦いがあった。異教徒との戦いはムスリムの義務の一つであるが、その戦いで戦死した者は天国に行くことが出来ると信じられていて、最近のアラブ側の自爆テロまでその精神は継承されている。

(出典 世界史の窓 https://www.y-history.net/appendix/wh0501-025.html)

 ハマスの兵士は、10月7日の虐殺を何度でも毎日でも繰り返したいと考えていると言われる。そうした戦いの中で戦死するようなことになれば、天国に行けると信じているからだ。自分がイスラエルの人たちの立場であったら、どのように感じ、行動するだろうか?一人、二人のテロリストが襲ってくるのではない。千人単位の規模の組織だった虐殺活動ができる集団だ。話し合いも通用しない。なぜなら、ハマスはイスラエル人をその場にいるなら殺し、あるいはイスラエル人が立ち去ることしか受け入れないからだ。イスラエルが国家の安全のために、ハマスを殲滅しようとする本質はここにある。

 急進的なジハードの大義のもとで武装集団を裏で操るのはイランだ。「シーア派の三日月」地域、イラク、シリア、レバノンといった国々で各集団をイランは支援している。ガザ地区を支配するハマスもその中の一つである。また、イエメン内戦で反政府勢力として戦ったフーシもイランの影響下にある。10月19日、イエメンからイスラエルに向けて発射されたらしい巡行ミサイルが米軍艦により撃墜されたと報ぜられた。

(出典 Financial Times ”The ‘Axis of Resistance’ pushing US to ramp up Middle East defences” https://www.ft.com/content/f4e4ffb0-48d4-450f-bc21-a55bf9a361e9)

 1979年イランは、革命で神権政治体制になった。神に主権があり、高位の聖職者が重要な決定をする。法の支配、基本的人権、民主主義の旗を掲げ、先頭に立つ米国とは、価値観が全く合わない。イラン革命で亡命したパーレビ国王をイランに引き渡さなかったことがきっかけで、1979年在イランアメリカ大使館人質事件もあった。以来、米国とイランは緊張関係にある。2020年トランプ政権は、イラン国内で支持が高かったソレイマニ司令官を殺害した。緊張の温度は確実に上がった。

 イランは核開発を進めているとする疑惑がある。2015年にオバマ政権主導でイラン核合意が調印された。しかし、イランは「あいまい政策」の中でその合意履行が怪しまれた。トランプ政権が合意から脱退し、強硬・対立政策へ転換。しかし、現バイデン政権では、再びイラン融和路線に転換。反故にした核合意を復活させ、経済制裁緩和の方向に動きつつあったことが融和政策の象徴だ。この米国の対イラン政策が、今の中東情勢の理解の大きな障害になっているばかりでなく、筆者はハマス事件の遠因にさえなっているのではないか?と感じる。

 イランの目的は中東地域での覇権を握ることだ。当然、サウジアラビアを盟主とする湾岸諸国と対立する。また、反米であり、米国を追い出したいと考える。また、米国に近い関係を持つイスラエルを潰したい。オスロ合意で、結束しつつある米国、イスラエル、湾岸諸国に対して、イランはハマスのようなテロ集団を使い、パレスチナ市民の犠牲を利用して、楔を打とうとしているのが大きな構図だ。イランがイメージするのは、彼らが考える神権政治体制を拡大させることにちがいない。また、中東のエネルギー資源をテコに全世界に対して影響力を行使することも魅力と考えることだろう。

 イラン、そしてハマスなどの武装テロ組織も、まともにイスラエルや米国と軍事的交戦に至れば、勝ち目はない。だから、いま行っているのは情報戦なのだ。マスコミ、SNS、国連などを通じて、ガザ市民の犠牲を利用することにより、イスラエルや米国の地位を貶めようとしている。これまでのところ、この情報戦はイラン思惑通り、イラン有利に動いているように見える。

 筆者が強く懸念するのは、われわれのような第三国の人々、西側メディア、国連などが結果としてイラン、ハマスを利する行動をしていることだ。言論の自由はある、しかし、次のようなことをよく考えた上で発言することが大切だ。

1 親パレスチナを説くなら、ハマスによる10月7日のジェノサイドと誘拐も同時に強く非難すべき。ハマスが、我々と互換性をもつ倫理観を持つなら、過ちを謝罪し、人質を即時解放すべきだ。あれから、1ヶ月以上たっても、人質を解放しないのは何故か?

2 隣国エジプトが、ガザ国境を開かず避難民を受け入れようとしないのは何故か?ガザ地区はもともとはエジプト管理下にあった時期もある。自国をハマスやそれに強く影響を受け続けてきた勢力の隠れ家にしたくないからだ。ヨルダンやサウジアラビア、湾岸諸国についても同様のことが言える。

3 有力な国際メディアであっても、戦禍の事象の一つ一つを直接取材・確認できているわけではない。二次情報、三次情報に依存している。情報の真偽はさほど確かではない。ハマスの影響下にあるフォトジャーナリストが各社にネタを提供してたという疑惑もある。(Politico “Israel berates New York Times, CNN, Reuters, AP over Hamas attack photographers”)

4 国連は、停戦を説くが、ガザ地区の代表ハマスと対話して、人質解放を説得することが何故できないのか?UNRWAはパレスチナのためだけに70年以上活動してきた。ガザ地区について言えば、2005年のイスラエル撤退以降、ガザ地区を運営してきたのは、ハマスとUNRWAのはずである。

 50年前のヨム=キプール戦争(第四次中東戦争)を最後に大きな紛争はこれまで起きなかった。1993年のオスロ合意以降、時間はかかっているが、イスラエルと沿岸諸国との和平が進んできた。いま発現しているのは、イランを源とする別軸の対立だ。たった1日で1,400人が自国内で無惨な虐殺を受け、240人が誘拐されるという大事件は、イスラエルにとっては存立危機事態だ。他国の人々の歴史的な無知・誤解をことさらに煽り、反ユダヤ主義を呼び起こしているのはイランとその傀儡テロ集団だ。ハマスはやって来ない、ミサイルも飛んでこない外国にいる我々は理想論でも何でも言えるが、存立危機にあるイスラエルの人たちを非難したり、指図する資格はないだろう。

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