来年に向けての米国は、経済、選挙、内政、外交にそれぞれ大きなワイルドカードが揃っている。市場は時々の情勢やイベントで上にも下にも大荒れの年になるような気がしてならない。
米国のインフレはこのまま沈静化するのか?筆者はとても懐疑的だ。12月13日、FRBは2024年に0.75%程度の利下げを示唆した。市場関係者の大歓迎はいうまでもない。あっという間に10年債のイールドは4%を割った。ドルは対全通貨で下落、金は高騰、円は1ドル151〜2円から142〜4円に一気に調整された。「今後の動向次第では利上げの可能性はある。」とは言いながら、ここまでハト派メッセージを出せば、このような反応をFRBは当然予想できただろう。この後の政策金利の発表を行なったイングランド銀行と欧州中央銀行は、多少の違和感を漏らしたのも無理はない。米国民主党の財政規律を緩ませっぱなしの政策続行を考えれば、インフレ再発の懸念が残る。2024年は大統領選挙の年である。政権からの独立性があることになっているFRBだが、政治的な意図を感じるのは筆者だけであろうか?
米国大統領選は混迷の極みになるだろう。民主党は、司法制度を政治的道具として使い、トランプ前大統領の再選の絶対阻止に出ている。米国史上初めての現職ないし前大統領に対する刑事起訴だ。4つの裁判が並行して進行する予定だ。今語られている公判日程からすると、トランプ氏の各地での遊説などの活動は、ほとんどできないと言われている。一方で、現状の支持率の調査では、多くのスイングステート (swing states) でトランプ氏優勢が伝えられている。ただ、こうした一般的な支持率調査の精度には限界がある。各州一般選挙での大統領選挙人の「総取り」の仕組みがあるので、有権者の支持率で優っていても選挙で負ける場合もありうるので注意が必要だ。
一方で、民主党バイデン大統領の出馬も何か腑に落ちないことだらけだ。一つには高齢であり、大統領に要求される本来的な執務にもはや体力的に耐えられなくなっているという指摘が多い。また、副大統領ハリス氏は全般的にすこぶる評判悪く、「もしも・・・」の時、繰り上がりで大統領の職が務まる器なのか?という疑問があり、決してプラス要因ではない。そして、脱税を発端に表面化しつつある息子ハンター・バイデン氏、その関連で疑惑が浮上している外国政府からの金銭授受だ。下院議会は大統領弾劾に向けた調査を始めている。フォックス・ニュースでは、バイデン大統領を米国史上最も腐敗した大統領だと言って憚らない状況だ。
米国内政で大きな問題は、民主党政権の極めて緩い移民受け入れについてだ。バイデン政権になってから800万人程度の移民が流入したと言われている。約半分は不法移民のようだ。これらの移民として入国した人たちは、労働力として米国社会に貢献している人たちも多かろうが、大都市で路上生活者となっている数もかなり多くなっている。カリフォルニアなどでは、窃盗などの犯罪増加や治安悪化も目に見えたかたちで深刻化している。メキシコとの国境は、中南米からの入国希望者ばかりではない、中国人やアラブ人も入国の簡単さに引き寄せられて集まっていると言う。簡単に言えば、共和党は社会保障制度にいたずらに負担をかける過剰な移民は抑制すべき、民主党は党の支持者拡大のために積極的な移民受け入れ支持、という構図となる。今度の選挙での重要な争点になるだろう。
米国現政権の外交においては「つまづき」が大きくなりつつある。これも選挙の争点となるだろう。「日本とウクライナ 終戦のタイミング」で書いたが、ウクライナ-ロシアの戦争はネオコンがロシアの弱体化を狙った代理戦争であることが、ますますあらわになってきる。しかし、戦況はこう着状態となり、ロシアの犠牲を厭わない戦いぶりは、ネオコンの計算違いであった。民主党は、なんとか現状路線での決着を目指し、共和党は、早々に手じまいという考えだろう。また、10月に始まったイスラエル-ハマスの戦争の核心は、対イラン政策にある。「イスラエル vs, ハマスの戦いと背後のイラン」で触れた通りだ。民主党政権のイラン融和路線が遠因だと筆者は見ている。この中東地域の今後の展開は、まだまだ予想もつかないものの、ガザ地区の状況を見れば、いかに早く終結できるか、いかに穏健派湾岸諸国の支持を取り付けていけるかで現政権の評価となろう。
これらの状況を踏まえ、2024年の選挙の話にもどる。ここから先は、筆者の希望的観測である。
バイデン氏であれ、トランプ氏であれ、そもそも既視感が強い争いで、米国全般の本音はどちらでもない方が良いと考える人たちが多いだろう。インフレのせいで、コロナ前より日常の物価レベルが2割超上がっており、暮らし向きが悪くなっていると感じる人が多いと言われている。そんな中で海外では大きな紛争が発生し、軍備・戦費の支援はますます支持されなくなるだろう。行きすぎた移民受け入れ政策については、中国人やアラブ系も多いとなれば安全保障上も問題だとして、見直しの機運が高まってきている。政策面では民主党は不利。
大統領候補者で言えば、共和党にはトランプ氏をはじめ、フロリダ州知事のデサントス氏、元国連大使のヘイリー氏がいる。一方、民主党はと言えば、バイデン氏が再出馬を表明した関係で他にはいないのである。迷走しつつある諸政策を立て直すという点で共和党に利があると筆者は考える。そのためには、共和党は3人の有力候補を早期に一人に絞り、若年層を取り込む活動が必須であろう。まさか、オバマ元大統領の出馬もないと思われ、大局は共和党だと見ている。
そして、もし結果がそうでないとすると、世界情勢はますます荒波となり、いろんなところにガタがきている小舟に乗った日本にとってはもっと厳しいことになると強く思うのである。これが「希望的」観測の理由だ。