日本の2023年 江戸時代化が加速

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 今年を振り返り、いつも心踊らされるニュースを提供してくれたのは二刀流で活躍した大谷翔平選手だ。そのような存在は、唯一大谷選手といっても過言あるまい。一方で、「日本」の悪いニュース、いやなニュースには事欠かない1年だったように感じる。こんなネガティブな感覚は筆者の年齢のせいなのであろうか。

 「失われた30年」の根底には、「日本社会の「江戸時代化」が進行していることが大きく関係している」という仮説を筆者はかねてから抱いている。江戸時代と言えば、260年ほど続いた平和な時代として、一般的には良いイメージを持つ人が多いだろう。 日本史と世界史を分離し、時代をぶつ切りにして教えるからだ。私たちは、そのように中学・高校で教育されてきている。しかし、江戸時代は、260年も経過すれば、社会制度としては各所にほころびが生じ、19世紀の世界情勢に強く突き動かされるかたちで、日本は明治維新へと大変革していった。

 江戸時代化仮説を考えるきっかけとなったのは、白井 聡氏「国体論 菊と星条旗」だ。第二次大戦後、GHQは天皇制を廃止するどころか、民主主義下の象徴天皇を作り上げ、それを通して日本を支配していった、という主旨である。キリスト教を基盤とする英米社会とはかけ離れた日本社会の再建、そして日本の自国陣営への取り込みのためには、合理的な判断であった。また、敗戦で自信を失った日本人にとっては、人心を繋ぎ止める最後の一本の糸であったことだろう。

 象徴天皇の存在が唯一の原因とは言わないが、戦前やさらにその前の過去との連続性の架け橋として重要な役割をもってきたと考える。戦国時代くらいから、朝廷は既に「象徴」的な存在でしかなかった。政権は将軍に委ねられ、世襲武士階級による持続的な支配統治機構を作り上げたのが徳川幕府だ。

 21世紀になって20年以上経った。現代における世襲武士階級と言えば、国会議員だ。豊田真由子氏によれば、日本の世襲議員の割合は他国に比べ桁外れに大きい。

自民党における世襲議員(衆院)の割合は、近年3~4割で推移しています。イタリアでは世襲が見られる一方、他は、(選挙によって変動はありますが)、英(下院)で1割、米(上・下院)で5~10%、ドイツや韓国はほとんど無い、という状況です。さらに、英米においても、「親の地盤をそのまま引き継いで、同じ選挙区から出るケース」となると、多くても1%程度で、ほぼ見られないとのことです。

政治は世襲で引き継ぐものが当たり前ではない海外 豊田真由子が分析「政界の世襲」のリアル(5)神戸新聞NEXT

 小選挙区制が始まった1996年以降の内閣総理大臣12名のうち、世襲でないのは3名(菅義偉氏、野田佳彦氏、菅直人氏)だけだそうだ。近年、閣僚レベルの世襲議員も特に目立つようになった。第2次岸田内閣での世襲議員比率は60%だそうである。豊田真由子氏は、そうなる背景についてよく調査・分析している。ご興味があれば、リンク先の記事を参照されたい。

 世襲議員が増える制度的な要因は確かにあるだろう。しかし、何よりも決定的なのは、親の代の支持基盤を受け継ぐことにある。つまり、選挙民として投票する側にいる私たちが、国政に関する能力・知見ではなく、「藩主の家柄」的な価値基準で候補者に投票する根深い傾向を持っているということだ。あたかも人間の習性が無意識のうちに先祖返りしているようなありさまであり、筆者はこれを「江戸時代化」の現象と捉えている。

 ある種の特権階級となった国会議員が中枢を占めるのが今の国会、そして政権である。そうなると、国民のための政策よりお仲間での利益分配、腐敗、そして政治プロセスの劣化につながりやすくなるものだ。また、国民の方も不満はいくつも抱えながらも、政治に参画したり、監視をするといった意欲もさらに低下しているように見える。そして、政治家とともに劣化したマスメディアの罪も大きい。もっとも、報道の受け手である国民がそういう意識ではないので、マスメディアも変われない、という面もある。政治、マスメディア、国民は総すくみ状態にあるとも言える。

 次の8つは、2023年の大きなニュースから政治関連として筆者がピックアップしたものだ。これらの事柄は、直接的に世襲議員が関係するものが多いわけではない。しかし、直近の政治のレベルダウンを端的に示している。また、何より、こうした問題が発生することの大きな弊害は、野党が政権を国会で追及するという、本来的には無駄な審議時間が費やされることだ。本来の重要な議題が数多くあるのに、こうした堂々巡り的な繰り返しが生じるのは、なんとも情けないことである。

2月 荒井首相秘書官を更迭=LGBT差別発言

5月 岸田首相、秘書官長男を更迭

6月 ネットで脅迫、ガーシー前参院議員逮捕

9月 洋上風力汚職、秋本衆院議員を逮捕

10月 女性問題、山田政務官が辞任

11月 神田副大臣はじめ政務官相次ぎ辞任

12月 安倍派裏金疑惑4閣僚交代

12月 柿沢未途議員 買収容疑で逮捕

 産経新聞の乾 正人氏 は、次のように述べている

「北斗の拳風に書けば、「お前(岸田)はもう死んでいる」状態なのだが、本人にはその自覚が一向にない。」

産経新聞の乾 正人氏は 「決断しない男」岸田首相は結局解散できない (東洋経済Online)

 言い得て妙なコメントだ。岸田内閣の改造の時系列を見る。党内の派閥や年功のバランスを考えた組閣などと称されてきたが、就任のインタビューで「これから勉強します」のような受け答えを平気で行う閣僚も見受けられ、訝しく感じたことも多かった。ご覧の通り、在任期間が短く、ここのところますます不安定になってきている。まさしく、「もう死んでいる」のだ。

第1次岸田内閣: 2021年10月4日 – 2021年11月10日
第2次岸田内閣: 2021年11月10日 –
第2次岸田内閣: 2021年11月10日 – 2022年8月10日
第2次岸田第1次改造内閣:2022年8月10日 – 2023年9月13日
第2次岸田第2次改造内閣:2023年9月13日 –
              2023年2月14日4閣僚交代

 このように今の政権には能動的に大きな重要決断をしていく力はあるまい。来年は、2024年 アメリカのゆくえ で書いた通り、波乱に富む国際環境だ。なので、危機が訪れ、受動的に大きな政策変更に追い込まれる可能性はゼロではないだろう。それにしても、防衛費増額にしても、異次元の少子化対策にしても、財源を明確にしないまま、何かをやっているふりで誤魔化すのはやめていただきたいものだ。また、こうしたことを弁論で解消できない野党の議論もマスコミの報道にも責任があるだろう。

 日銀の植田総裁が来年の金融緩和政策の出口を示唆し始めた。そもそもの話であるが、来年の賃上げを「見極める」ことなどできるのであろうか?その場になって「見極めた」と宣言するくらいが関の山で、その先はどうなるとか、うまく経済がまわるとか、誰にもわからないはずだ。社会の賃上げは一様ではないので、さらに経済格差の問題が悪化するのだろう。

 筆者の予想は、2024年以降のインフレの再加速だ。政府は2024年も新規国債発行を伴う赤字予算でインフレ促進政策だ。日銀の緩和政策解除とは言っても、政策金利は最高1%程度。しかもその幅しかないので、小出しにしていくしかない。1,000兆円を越えた国債発行残高に対して、政府も日銀もある程度のインフレを使い、実質残高を小さくしようとしているに違いない!と筆者は勘繰っている。その時に犠牲になるのは、国民の現預金だ。

 貴族化した国会議員は元から大きな預金があり、多少減っても腹をすかせることはない。少ない預金しかない一般市民は、その少ない預金さえ目減りさせられたら、すぐに食うに困るのである。

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