米国は抑止力を発揮か? 紅海で活動するフーシ派

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 米国ホワイトハウスが1月3日にイエメンの反政府勢力フーシ派に対して最後通牒的な声明を発した。この声明は、米国と12カ国の共同声明のかたちをとっている。12カ国には、フランスを除くG7諸国、オーストラリア、バーレーン、ベルギー、デンマーク、オランダ、ニュージーランド、韓国、シンガポールが名を連ねている。日本でもNHKなどが報道したが、外務省や首相官邸のホームページには記載されていない。

 紅海は、スエズ運河とインド洋を結ぶ海路の要だ。世界の海運貿易の15%が通過すると言われている。昨年10月に始まったイスラエル-ハマスの戦争を機に、フーシ派は民間船舶に対する攻撃や不法な拿捕などを繰り返している。この地図でわかるように、アラビア半島南端を占めるイエメンは、紅海・アデン湾と接する海岸を長く有し、この海域への介在についてはとても有利な位置にある。

 イエメンの歴史は古い。旧約聖書でソロモン王に贈り物を贈ったシヴァの女王がこの辺りを支配したと言われている。16世紀以降、オスマン帝国の支配下になった。19世紀末以降は、イギリス保護国の南イエメンと、イスラム教シーア派が主導するイエメン王国(のちに共和国となり北イエメン)に分かれた。この二つが合体し現在のイエメン共和国となったのは1990年だ。

 2020年の国連のデータで人口約3千万人。一人当たりGNIは、わずか940ドルの最貧国の一つだ。歴史的な活断層は、今世紀に動き始めたのだろう。2015年から2022年まで激しい内戦に陥っていた。サウジアラビアが支援する政府軍と、イランが支援する反政府軍フーシ派の争いだった。今は、暫定政府とフーシ派との間で停戦状態にある。

 ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派、そしてレバノンのヘズボラ、全てはイランとつながっていることは イスラエル vs. ハマスの戦いと背後のイラン で述べた。かれらの共通の目的は、イスラエルを潰すこと、そして、中東からアメリカを追い出すことだと考えられる。

 2023年10月7日にハマスがイスラエル領内で大虐殺を行なって3ヶ月が経過した。ハマスの巧妙な広報活動で、国際世論を事実上味方につけ、世界中に反ユダヤ主義を撒き散らした。ハマスは壊滅的な損害を被るだろうが、反イスラエル世論をここまで高めたことは大成功だと言える。

 そして、それ続くフーシ派のこの海上活動だ。貨物船やタンカーがアフリカ喜望峰へ迂回するすることにより、船賃は2倍程度になっているそうである。サプライチェーンを乱すだけでなく、世界のインフレにとっても無視できない影響を持つことになる。2023年12月18日、米国は「繁栄の守護者作戦」として、有志国と共同で紅海の巡回を始めた。しかし、それ以降もフーシ派は活動をしているのだ。もし、このままでいくようでは、これもフーシ派の大成功となるだろう。

 米国すべきことは、フーシ派の軍事設備に大きなダメージを与える意思を伝えることだ。どんな理由があろうとも、世界全体に大きな迷惑を与える民間船舶への攻撃はダメであることをはっきり伝えることである。しかし、米国が本当にそのように行動できるか、筆者はかなり懸念を抱いている。1月3日に声明文は、上品すぎて弱いのだ。

The Houthis will bear the responsibility of the consequences should they continue to threaten lives, the global economy, and free flow of commerce in the region’s critical waterways. We remain committed to the international rules-based order and are determined to hold malign actors accountable for unlawful seizures and attacks.

(筆者訳:この地域の重要な海路で人命、国際経済、自由な通商を脅かし続けるなら、フーシ派はその結末の責を負うことになる。われわれは、国際的なルールに基づく秩序を堅持し、不法な拿捕や攻撃を行う悪意ある者に責任を取らせる覚悟である。)

米国ホワイトハウス2023/1/3声明

 これでは国連の非難声明と同じだ。実効性を持たせるためには、「これ以上やったらあなたたちの基地を攻撃しますよ」と言い、もしそうなったら、本当に反撃するしかフーシ派を制止するができない。今の米政権は、中途半端な政策で失敗を続けてきている。アフガニスタンでの敗走、ロシアのウクライナ侵攻を抑止できなかったことを世界はよく見ている。
 
 もし仮に、ここでフーシ派が抑止されないとすると、いよいよ混乱はより広く波及するものと考えられる。その意味で、米国のこの一手がどのように効いていくのか、それともそうでないのか、注視し続ける必要がある。

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