先週の岸田首相の訪米に関する報道をみて、様々な違和感を感じた。日本の現政権や外務省は、現状の危険さをよく把握できていない。現米政権は、ネオコン思想の危険な戦略を進めようとするが、リベラル人道主義や理想論が邪魔をしている。その結果、中途半端な融和政策でかえって抑止力を失い、国際情勢の不安定化を招いている。
バイデン政権の打ち上げ花火イベントの一環で、岸田総理の訪米となった。大統領専用車ビーストに異例の同乗で喜んでいる場合ではない。今回の訪米は、岸田首相を好きとか、見込んでいるからではないはずだ。対中国の安全保障政策の協力国として、日本を中心にはめ込みたい米政権の意図は明確だ。少なくともそのように見せたいという民主党政権の宣伝イベントに過ぎない。無論、岸田首相はと言えば、国内の話題を変えて支持率アップを図りたいということがあるだろう。
今回の日米首脳共同宣言(仮訳だそうである)の安全保障関連の内容のポイントを筆者なりに大掴みに箇条書きすると次のようになる。断片的には、日本国内で既に報道されてきたことも多く含まれる。それにしても、国民的合意形成や法的な手当ができていな事柄が多い。そしてGDP2%は予算の当てもない。つまり、多分に「絵に描いた餅」、実質に乏しいのだ。下準備もろくにせず、よくもまあ米国のお膳立てにそのままのって、そのまま帰ってきたものだと思う。安倍政権と同様、まずは「やってる感」の演出だ。
- 尖閣諸島は日米安保条約第五条の適用対象
- 日本の防衛費をGDP2%に増額
- 平時及び有事の連携強化のために米軍・自衛隊の指揮命令系統の改善
- トマホーク等を含む高度装備品配備の協力
- AUKUSの準メンバーとしての参画準備
- 日本の武器輸出三原則の見直しと高度装備品の共同開発
- 沖縄辺野古基地の推進
- 宇宙開発での協業(有人月面着陸と低軌道偵察衛星)
こうしてまとめて並べれば、一見これから一体何が起こるのか?とさえ感じる。しかし、今日、明日の時間軸では、実質がないものだ。それでも、米国エスタブリッシュメントたちの危機感は大きいし、こんな打ち上げ花火であっても打ち上げたいのだ。日本がそれに見合う危機感を持っているか?そして、その危険さをわかっているか?が本当の問題であろう。
昨年8月に日米韓共同声明が発せられた。(これについては以前のブログ)それに続くかたちで、再び中国名指しの対抗声明だ。当然、中国は不快感をあらわにしている。中国から見れば、有事において日本はしょせん下働きしかできないことはわかっている。それより、先鋭的な米英豪(豪=英コモンウェルス)勢力に日本が絡むことで、その勢力がさらに強化されることこそが嫌だろう。
日本にとっては、米英に追従することは戦略的には良い。以前のブログで書いたとおり、英国の「連続航行抑止」を手本にし、長期的には独自の抑止力を手に入れるべきと考える。しかし、今このタイミングで「中途半端に」軍事的な緊張を高めるような働きかけを行うべきではない。なぜなら、中国は経済も軍事力も強大であり、もっと慎重かつ実質性をもって、抑止すべきだからだ。
かつて中曽根首相が就任早々、米国、韓国との関係を強化しながら不沈空母発言をしたことがあった。(NHKアーカイブ 中曽根首相の訪韓訪米と不沈空母発言)当時は、米ソ冷戦のパワーバランスが効いて安定しており、しかも中国は貧しく弱かった。だから米国ベッタリで、不沈と息巻いても良かった。40年ほど前、1983年頃の話である。今の状況は全く違う。特にネオコン主導の現政権の外交は失敗続きだ。ウクライナしかり、イランしかり。対抗策が手ぬるいので、紅海のフーシ派さえ抑止できない有様だ。今、米軍を恐れるものは誰もいないとさえ言われている。
失策続きの現米政権は、台湾関連でかなり危険なことを始めていることをご存知だろうか?中国側海岸からわずか2キロにある、台湾が実効支配を続けている金門県に少数の米軍グリーンベレー部隊を駐留させているというのだ。(NY Post Taiwan admits US forces are stationed on islands off the coast of China, likely escalating tensions )1950年朝鮮戦争の時、あまりにも中国本土に近いこの領域を防衛線の外として以来、約70年ぶりの政策変更となる。金門県の位置関係は次のとおりだ。
中国当局はもちろん認識しており、中国への明確なシグナルだと評する向きもある。仮にそうだとして、中国が常に冷静かつ理性的であればよい。しかし、ウクライナの敗戦がさらに濃厚になったとしたら中国はどう考えるか、中東の戦禍が拡大したら中国はどう考えるか、誰もわからないのだ。そして、中国本土目前の島に、こうした危険な駒を置いている米国と日本は同盟関係にある。
歴史を振り返れば、近世以降、日本は欧米の覇権国とうまく付き合ってきた。江戸時代はオランダと通商関係と情報収集。幕末から第一次大戦までは英国。第二次大戦で米国と戦ったが、その後70年近く友好同盟国だ。ただ、最近30年程度、奇しくもソ連崩壊以降の期間、そして日本の「失われた30年」とも重なる期間だが、何かおかしくなってきている。日本は無思考状態の対米従属政策だと言われても仕方ない。
在日米軍は総勢55,000。政府としては「来ていただいている」とでも考えているかもしれない。地位協定を見直すことなく、航空管制の治外法権状態を放置し、実質的な自由出撃権も容認している。従順でこんなにやりやすい国は他にないはずだ。しかも、外国で保有される米国債8兆ドルのうち、日本は1兆ドル以上保有し、世界の中でダントツに協力的な国だ。ならば、もう少し米国と交渉すべきだ。欧州と横並びで防衛費をGDP2%に上げろと要求するのなら、米国債保有高を欧州並みに減らすかもしれないと言えばよい。トマホークミサイル程度の費用は、タダでもいいくらいのものだ。USスティール買収の承諾くらい取り付けても良い。
仮に台湾有事が起こったら、日本は巻き込まれるのはほぼ確実と考えざるをえない。そのような状態の大部分の事象は、現法では想定されていないことばかりとなったとしても全く不思議ではない。つまり、日本に台湾有事にしっかり対処する準備はない。そんな中で、首相官邸や外務省のホームページと言えば、親善ムードよろしく首脳たちの写真ばかりを掲載し、マスコミは9年ぶりの国賓待遇の訪米とばかり報道する。肝心で命や生活に最も影響する話が伝わってこない。それが今の日本だ。