国際人道法では解決できないイスラエル・ガザ紛争

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 ICC (国際刑事裁判所) がイスラエルのネタニヤフ首相とガンツ外相、そしてハマス指導者たちに対して逮捕状を請求したと報道された。筆者は強い憤りを感じている。 この動きは、現状の解決に役立たないだけでなく、国際社会の真の課題をわかりにくくするからだ。そして、過去数十年のイスラエルと周辺の紛争と異なり、今回はイスラエルは建国以来の窮地に立たされている。周辺地域の一層の混迷を加速する可能性がある。

 約20年前に発足したICCは日本政府も認めている国際機関。日本人判事も送り出している。しかし、常任理事国で言えば、米国、ロシア、中国は承認していない。大国にとって、自らの国家主権を上回るような司法権はありえないという考え方だろう。実は、大国に限らず、立憲国家であれば、同様に考えるのが論理的だ。つまり、国家主権を凌駕するような超国家権力は未だ存在しないのであって、対等な国家間の協議・合意が現在の国際社会で存在しうる最善のものだ。

 選挙によって選ばれた政権が存立危機事態に際し軍事力を行使すると機関決定し、実力行使の中にある。その元首に逮捕状を出し、現実に逮捕なり自首するとはICC検事は期待していないだろう。仮に、ハマスの指導者も含め逮捕したとして、裁判ができたとしよう。どのような判決なのだろうか?そうしている間にも、ガザでの紛争は進展し、戦闘は続くだろう。つまり、逮捕状を請求するというのは見せかけであって、実質がカラの行為だ。まさに、形式だけでフィクションを表現するカブキと同じである。演劇の表現方法なら形式もあろうが、現実の紛争では形式は役に立たない。

 そもそも今回のガザ紛争はわかりにくい。というか、わかりにくく報道されてきた。ヨルダン側西岸にあるアッバース議長のパレスチナ自治政府とガザ地区のハマス政権は別物である。平和路線のパレスチナ自治政府と過激派ハマスは2005年に決別している。しかし、国連は両者を単一の政体としてみなしている。この現実との乖離の罪は大きい。そして、国連パレスチナ難民救済事業機関 (UNRWA) はどちらも支援してきたのだろう。ハマスは、その支援を使ってガザ地区に総全長数百キロの地下トンネル網をつくり、武装集団の施設とした。国連の支援は、70年以上続けられているので、ベッタリの人的関係性も根深いだろう。ガザ現地の保健当局とは、ハマスの組織だ。毎日のように報道される一の位まであるガザ地区死者数を私たちは聞かされ続けている。

 国連が本来やるべきことは何だろうか?十数年の間UNWRAの資金使途や効果を確認してこなかった。ハマスがこれを利用した。実力行使の紛争が起きたら、本当は割って入って停戦の仲介をすべきだが、行えていない。真に国連の役割を信じるなら、テルアビブなりガザにいつまでも張り付いて、両者を話し合いのテーブルに引きずり出すくらいの気概があっても良い。物資搬入が妨害されているというなら、それが実現するまで検問所に座り込んでもいいではないか。グレーテス事務総長は、こうしたことをちょっとはやっているようなジェスチャーはするが、そのようなことを完遂するような覚悟はないように見える。

 国連にはそこまでの役割はないと考える向きもあるだろう。まさしくそここそがポイントだ。ならば、逮捕状を出すのもお門違いなのだ。このことから感じられるのは、体の良い国連気取りだ。お金を撒くことしかできず、現実からどこか遊離した安全なところに身をおいて、正論らしきことを唱える。そして、それは社会の上層・貴族の中のリベラリストから大きく共感・支持が得られる側面だ。案の定、米国著名人関連のICC支持の報道も出始めている (時事通信 クルーニーさん妻、逮捕状請求を支持 ICC専門家パネルに参加)。紛争当事者どちらにとっても利益にならないだけでなく、一般人にとっては、そのような事が本質をとらえる邪魔をしている。

 昨年10月7日、イスラエルから250人余りが拉致・誘拐された。なぜイスラエルは、もう少し時間をかけハマスと人質交渉しなかったのか?ガザ地区へなぜ進軍を決めたのか?その理由は、ハマスは交渉できる相手ではないからだ。1,200人虐殺については、被害の映像・写真を全く公開できないほどの無惨な殺戮・レイプを行い、イスラエルが滅ぶまで毎日でも行うと言って憚らない狂信的過激派がハマスだ。軍事的な支援はイランが行っていると言われている。国連UNRWAも野放図な運営でその勢力拡大に加担したと言われても仕方がない。しかも、先般の国連総会では、パレスチナ自治政府とハマス政権を区別しないまま、パレスチナの国連加盟支持決議が採択された。国連も日本を含む賛成した国々も理解のレベルはその程度なのだ。

 歴史の中で最も難しい国際問題がイスラエル・パレスチナ問題だ。国連は役不足なことは明らかだが、それでは誰が解決の後ろ盾になれるのだろうか?ほんとうは米国だ。しかし、バイデン政権は、外交では特に失策続きだ。特に中東政策はよろしくない。ジャーナリスト殺害疑惑などを理由に、就任早々サウジアラビアを遠避けた。なぜか無益なイラン核合意回復を目指し、オバマ時代の融和政策を復活させた。昨年9月には、サリバン補佐官が「中東は過去20年で最も静かだ」とForeign Affairs誌 (印刷版) に寄稿したが、その矢先に10月7日の事件が起こり、慌てて同誌オンライン版で修正せざるをえない始末だった。

 昨年、ハマスの事件直後の10月18日にバイデン大統領がイスラエルを訪問し、イスラエル支持を表明した。本当は、この出来事の位置付けを世界に向け発信したり、武力行使の前に腰を入れてハマスと交渉する姿勢を示すべきだった。それ以降のバイデン政権の発信はふらつき続けている。侵攻に反対したり、武器を送らないと言ってみたりだ。外交政策の観点からでなく、大統領再選のための支持層の顔色をうかがう観点からの発信が、あまりにもわかりやすく臆することなく行われている。

 イスラエルにとって、紛争の相手はガザ地区のハマスだけではない。北のレバノン領にいるへズボラからロケット攻撃が続いていおり、イスラエル北部居住の約8万人が避難生活をしている。南のイエメンのフーシ派はハマスとの連帯を唱えて、紅海の交通を脅かし始めて久しい。つい最近、イエメンから発射したロケットがイスラエルに到着したと報じられている。そして、4月に発生したイランとの報復合戦だ。イスラエルは、まさに四面楚歌だ。

 シカゴ大学国際政治学教授のミアシャイマー氏の考察では、イスラエルはいま危ない状況にあるという。かつてのイスラエルの軍事戦略はエスカレーション報復だった。相手に圧倒的な強さの報復を行う実績を積むことで周囲アラブ諸国を抑止した。しかし、現状は米国、国連、国際世論からのプレッシャーでその戦略が取れなくなっている。西側の報道で「イスラエルの孤立」という言葉が出てくること自体、ハマス側の広報活動の成果ともとらえることができるだろう。このように、イスラエルのエスカレーション報復を封じる政策、そして並行してへズボラ、ハマス、フーシといった代理組織を通してイスラエルを弱体化させようとするイランは狡猾だ。

 ガザ地区の人的被害はまさにに悲劇だ。町や建物の破壊もおびただしい。ハマスが「人の盾」を使い保身をし、同時にイスラエルの国際社会での評判を貶めようとするのは卑劣極まりない行為だ。世界数十億人がスマホで何でもリアルタイムで見る事ができる21世紀でこそ可能な卑劣さがある。その一方で、いまのハマスの指導部と中枢を壊滅させることはイスラエルにとって生命を守るために必要なことだろう。悲劇としか言いようがない。しかし、ただただ人道を説いても、問題は解決しない。話し合える相手ではないからだ。紛争終結後のプランが必要だ。残念ながら、バイデン政権にはリードする能力が不足しているようだ。紛争はかなり長期化し、悲劇は続きそうだ。

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