トランプ2.0 経済政策の始まり

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 トランプ大統領が就任した。予告していた通り、就任式直後に多数の大統領令を発した。就任式典直後の聴衆の眼前で、またホワイトハウス執務室へ移動後もカメラを入れ、記者団の質問に対応しながら次々に署名した。180度の政策転換と政治的勝利を印象付ける目的があるのだろう。

 行政組織と無駄な経費の削減については、普通の民間企業と同じだ。リモートワークの取りやめ(緩くなった労務管理の引き締め)、公務員への業務命令の徹底、連邦政府内のムダなDEI規則の撤廃と能力主義の復活、軍など一部を除いた新規採用凍結、DOGE (Dept. of Government Efficiency) の設置などが続く。

 エネルギー政策を国家戦略の中心に据えるトランプ政権は、前政権の政策を反転させる。そもそも国連気候変動枠組の科学性を信じていないことが根本だ(筆者も同感)。パリ協定からの脱退を再表明。そして、国家エネルギーの緊急事態を発した。アラスカの資源開発促進、米国全土のエネルギー開発振興、EV自動車に関する義務廃止、洋上風力発電の全ての許可・補助の一時差し止めなどだ。これは、今後、国内の石油・LNG企業の活性につながるだけでなく、物価高鎮静の大きな材料になるだろう。また、国際的にみても、COPの取り組みの完全な頓挫を予感させ、中東やロシアの関連で地政学的な力関係にも大きな影響を及ぼすだろう。

 これからの米国経済・金融を見ていく上で重要なのは、次期財務長官に指名されているスコット・ベセント氏だろう。ベセント氏は、1990年代にソロス・ファンドで活躍した経験を持つ大金持ちだ。先週に米国議会上院で行われた任命公聴会での同氏の質疑応答ぶりは、素晴らしいものだった。冷静で論理明晰、政治的にもしなやかな対応ができる実力者のようだ。金融界の実務から育っていることは、学者肌のイエレン前長官とは好対照だ。

 ベセント新財務長官は、トランプ氏が唱える関税政策を支持している。大統領就任初日の今日は関税に関する大統領令は何もなかった。これは当然のことだ。トランプ氏が考える関税政策は、貿易相手国との交渉カードであるだけではなく、もうすぐ期限切れを迎える「トランプ減税」の延長、米国債の発行・借換えなど財務省の運営と密接に関係するからだ。ベセント財務長官の正式な就任を経て、周到な準備と手順の中で打ち出されていくことになるだろう。

 米国は減税を続ける(増税はしない・できない)、社会保障費用など制度上削減不可能な支出は大きい、国債利払い金額も膨らみ始めている、マスク氏によるDOGEでも削減金額には限界がある、などのことから財政赤字は増え続け、米国債残高もしばらく積み上がり続けると見る向きが多い。これとウラハラにあるのがインフレ率と金利の高止まりだ。FRBが利下げを始めた9月以来、十年債のイールドが100bp上昇していることに表れている。こうした状況に対して、ベセント氏は、1985年レーガン政権下で行われたプラザ合意のようなかたちでの、米ドル切り下げ案を考とえていると噂されている。もし、そのようなことがあるなら今度は「Mar-a-Lago合意」となるのだと言う。

 もしこのようなシナリオが実現するなら、米国としては、国内のエネルギー産業、鉱業資源産業、製造業の振興となり、積み上がった債務はインフレによる目減りできるバラ色の絵となる。40年前の1985年当時は、従順な日本が経済No.2で、せいぜいG7国が合意すればなんとかなった。今は、それに加えて中国をこの話に載せなければ為替切り下げは不可能だ。果たして、21世紀の国際経済・金融環境でそれができるのかどうか。

 中国と米国の利害対立が一層のこと鮮明になることは間違いなさそうだ。

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