トランプ関税ショックと対応策

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 4月6日付の日経オンライン記事「トランプ大統領への手紙 米国は目を覚ますときだ」は、小さな水たまりでの独り言のようで噴飯物だ。様々なリベラル政策の「やりすぎ」をした民主党政権が退陣し、米国は「目を覚ました」からこそ、世界貿易体制の再構成を試みているのだ。これが成功するかは不確実だ。しかし、その真意や狙いをよく理解せずには、我々日本人にとっての最善の策は見えてこない。

 大統領経済諮問委員会のミラン議長の昨年11月に公開された小論文やベセント財務長官の発言内容を考察していると、米国の考えの輪郭がわかる。次の通りだ。

米ドルが基軸通貨(準備通貨)の役目を果たしているという固有の状況は、長年の間、過剰なドル高の要因となっている。米ドルを準備通貨の地位に保つことは、それにふさわしい法制度、金融市場、軍事力が必要で、そのコストを米国は負担している。

 第二次大戦直後の米国は世界の中で圧倒的な経済力をもち、相手国に有利で、非対称的な貿易条件をかつては受容した。しかし、時間とともに諸国の経済成長で米国の相対的規模は低下したが、米国に不利で非対称的な貿易条件はいまでも残存している。

 準備通貨であることからくるドル高基調と米国に不利な通商条件の二つが原因となって、製造業は外国に移転し、輸入依存度が高まった。製造業の雇用も減った。そして、コロナ禍をきっかけに、安全保障上重要な工業製品のサプライチェーン・リスクが顕在化した。これらの問題を解消することで「Make America Great Again」ができる。

 米国は、このようなあからさまの近隣窮乏化政策を発動したのだから、おおよそ全ての国は不快に感じるのは当然だ。今の米国の経済的窮状(財政赤字、インフレ、拡大する経済格差)は、自らの退廃からくる面も大きい。また、今回発表の関税政策やその後の政策の理論的裏付けも万全とは言い難い。

 一方で、日本はどうか?自由貿易体制下で、エレクトロニクスを筆頭とする多くのお得意の製造業分野主導権を中国企業に譲り渡した。生き残った日本企業も製造拠点を多く海外に移した。製造業が空洞化している様は、米国そっくりだ。人口減少は加速傾向さえ見られ、国内市場は縮小を続ける。ソフトパワーとかインバウンドとか言っていれば、多少聞こえは良いが、「失われた30年」が「40年」、またはそれ以上になろうとしている。

 軍事的鼻息が荒い中国や北朝鮮、ロシアを隣国としながら、軍隊ではない自衛隊を米軍と連携強化させるといった不明瞭なことでお茶を濁すばかりで、防衛についての国民的議論は深まらない。「目を覚ますとき」にあるのは、むしろ日本だ。

 昨日4月7日夜、石破総理がトランプ大統領と電話会議をしたと報じられた。話し合いたい意向を明確に伝えたようで、これは正解だ。米国をたて、よく耳を傾ける姿勢をまず示すことが大切だ。「報復関税!」などと息巻いているEUの真似をしなくて良かった。ベセント財務長官を担当させるとの報道も良いニュースだ。

 歴史的な混迷期に入った世界の中で、役に立たないイデオロギーや理想論はいったん脇に置いて、現実主義で対応していくことが得策だ。米国陣営に付くのか、中国陣営に付くのかの選択は明らかだ。日米関係を巻き戻して「中立」するのは一見平和的で良さそうだが、どちらからも睨まれ、それでもやっていく準備や力は日本にはない。

 ASEAN諸国やオーストラリア・太平洋諸国との友好関係も役に立つかもしれない。日本の経済安全保障、エネルギー政策、食の安全保障、そして防衛を見直し、米国との交渉の中で、いかに交渉で国益を埋め込むことできるか?が重要だ。

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