遠のいたウクライナ和平

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 ウクライナのゼレンスキー大統領が米CBSの看板番組「60 minutes」(米時間4月13日)に出演した。ゼレンスキー氏は、ロシア、プーチン氏に対する憎しみと不信感をあからさまに表した。また、トランプ政権が仲介役としてロシアとウクライナを平等に扱う姿勢に対して不満をにじませていた。罪のない被害者であるウクライナの言うことをなぜもっと尊重しないのかと示唆した。

 昨年の米大統領選挙期間中の放送で、「60 minutes」は報道番組であることを辞めている。カマラ・ハリス氏のインタビューで、望ましくない応答フッテージの編集・撮り直しを行い、報道ではなくハリス氏の政見放送となっていたことが後から暴かれた。今回のゼレンスキー氏へのインタビューでも、戦争の背景については、ロシアの理由なき一方的な侵略としただけで、市民や学校、病院を攻撃されつつある国のかわいそうな国の大統領として、ゼレンスキー氏を位置づけている。どちらの放送でも、この根底はアンチ・トランプだ。

 ゼレンスキー氏の「60 minutes」出演は、大きな過ちを示唆する一つの現象だ。米国国内向けの地上波局の番組という公の場において、現政権の方針から外れたことを訴求することは、終戦・停戦交渉のなんのプラスにもならないだけでなく、現政権からも決して良く思われることはないからだ。

 去る2月末のホワイトハウスでのゼレンスキー氏とトランプ氏・ヴァンス氏との大口論の一件もあった。今回の番組出演を見ていると、ゼレンスキー氏の姿勢は全く変わっていないし、このままでの終戦交渉も望んでいないことが窺われる。むしろ、領土奪還までの戦争継続、昨年以上に欧米の直接参戦を煽っているとさえ見える。トランプ氏は「第三次世界大戦につながりかねないギャンブルだ」とセレンスキー氏を諭していたことを思い出す。ゼレンスキー氏はむしろそれを望んでいるのではないかとさえ筆者は感じる。

 人類の歴史では、戦争では負けた方が降参し、勝者に服従してきた。ウクライナは、大国と戦争をする道を選び、決定的な劣勢にある。ウクライナのために援軍を送る国は一つもない。ただ、武器や資金を援助するだけだ。しかも、武器や弾薬の在庫も底をついてきた。論理的には降伏し、欧米を味方つけ少しでもましな条件を交渉するべき段階だ。頑なに妥協を拒否するゼレンスキー氏の気持ちの一部には同情はするが、「ないものねだり」ばかりを続けていては、国は破滅の道を進む一方だろう。

 茂木・宇山著『「文明の衝突」が生み出す世界史』では、9世紀成立のキエフ公国にルーツを共にするウクライナとロシアが、その後異なる中世の歴史を経て、全く異なる2つの文明に変わっていったことが解説されている。米国の前国務長官のブリンケン氏の祖先はウクライナ出身のユダヤ人、国務省高官として近年のウクライナ政策を指揮してきたヌーランド氏の祖先も、現モルドバ地域出身の東欧系ユダヤ人だ。そして、ゼレンスキー氏も東欧系ユダヤ人だ。

 この戦争は、米国が盲目的に推し進めてきたネオコン政策であるNATO東方拡大の行き過ぎの帰結だ。それに加えて、長い歴史や民族からくる恨みや不信感がロシアとウクライナの反目をとても強固なものにしている。EUや米国内民主党支持層を中心とするグローバル・エリートたちは、プーチンを悪魔化するばかりで、妥協はしないとする。英国は、歴史的なロシア嫌いが蘇り、結果として妥協反対の立場だ。

 こう見ていくと、ウクライナの戦争終結は遠のいた感じがする。トランプ政権としては、この戦争はバイデン政権のせいだとして、支援を本当に打ち切るショック療法をしかねない。トランプ関税ショックとは別のショックが世界を揺るがすかもしれない。

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