対イラン政策 崖っぷちに立つアメリカ

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 米国が一気に好戦ムードに包まれた。「イスラエルは予想以上の戦果をあげている」、「イランは窮地に立たされている」といったメディアの論調だ。背後のユダヤ系資本や軍産複合体の影響を感じる。そして、イスラエルが奇襲を行った直前まで「交渉」をするとしていたトランプ氏は、突然「無条件降伏」をイランに突き付けた。それと並行して、空母ニミッツをアジアから中東に向かわせながらである。米国が自らの手でイランの核開発施設を爆撃するのか?退役した米軍大将たちは、そうした作戦がいかにうまく行くかを声高らかに主張する。

 米国が直接参戦するか否かは、その後の世界秩序の大きな岐路になる可能性がある。もし、参戦すれば、米国の外交的凋落は加速し、まさしく多極世界、いやリーダーなき無極世界の本格的幕開けとなろう。米国の外交は大きく一貫性を欠いており、今回のイスラエルによる奇襲を黙認したことだけでも、多くの国からの信用を失墜させた。しかも、交戦が始まれば、中東広域に展開中の4万人とも言われる米軍基地への報復は必至だ。B2戦略爆撃機で30,000ポンド爆弾を落とすだけでは決して終わらない、決着がつかない長い戦いになるだろう。その上、イランによるイスラエルへの報復攻撃についても防御しきれない状態となるだろう。

 「イランは劣勢」、「イランは弱い」という論調は、イスラエルが西側を駆り立てるための戦争プロパガンダだととらえて差し支えない。人口9千万人、広大な国土、ホルムズ海峡を望む立地、LNG埋蔵量世界2位、石油埋蔵量では世界4位、古代ペルシャ以来の歴史ある民族、そしてイスラム教。中近東地域で見れば、規模でも経済力でもダントツの強大国がイランだ。イラク、アフガニスタンよりはるかに力がある国だ。中国とロシア、そしてBRICSが友好国・同盟国として交流を望むのは当然のところでもある。

 イラン神権政府はシーア派が持つ宗教的信念からイスラエルの殲滅を目指している。2023年10月のハマスによるイスラエル領内でのテロに始まり、イエメンのフーシ派、レバノン南部のヘズボラを代理として使いながら、イスラエルを苦しめた。確かにあくどい戦略だ。

 その一方で、米国からの事実上の承認と支援を受けながら、イスラエルはガザの破壊、「ジェノサイド」と言われても仕方のない行為を続けてきた。ヘズボラに対してはイスラエル自らが反撃。フーシ派に対しては、ホルムズ海峡にいる米軍が反撃をした。核兵器開発疑惑を理由にイスラエルは、イラン直接攻撃を始めたわけだが、米国を道ずれにしようとしている。

 まさに米国は崖っぷちにいる。2025年6月20日時点で、米国とイランは複数回の対話をしていると報道されている。おそらくは、外交的な解決を両者は目指しているだろう。しかし、イスラエルの誘いに乗れば、あるいは、軍産複合体の甘言につられれば、米国は凋落のペースを速めるだろう。しかもその場合、国内のMAGA支持層からの支持も危険にさらすことになり、米国内の政治的分断も更に深刻化するだろう。

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