トランプ政権のカブキ戦争

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 日本の歌舞伎舞台では、戦いは全て象徴表現だ。ヒーローは「おもちゃ」と見間違えるような刀を振りかざし、舞踏のような優雅な身のさばきを披露しながら、相手を次々と斬る真似をする。追手は次々と自ら空転を披露しながら、見事に討ち取られた真似をする。戦いは全て象徴的表現によるお約束で終わり、歌舞伎役者は勝利の見栄を切る。

 米国のイラン空爆はまさしくカブキ戦争だと言えよう。前座となったイスラエル空軍は、イラン領空内を自由に飛行し、重要核施設を成功裏に爆撃したと発表。本当にイスラエルの戦闘機が領空内を飛び回ったのか、どのくらいの成果が本当に得られたのかを示す証拠は乏しい。

 米軍は、ノーメークで映画「スターウォーズ」に出演できそうな外観のB2戦略爆撃機を派遣し、鳴り物入りのバンカーバスター爆弾を投下したと発表した。山間地の地表は水平とは限らず、カタログ通りの深度への到達ができたかどうかも疑わしい。しかも、そもそも核濃縮設備は到達可能な深度にあるのかさえ実際には不明だ。なので、米国が発表したような「成果」があったのか、確認しようがない。重要なものは、B2爆撃機着前に退避していたとも推測されている。

 イランの米軍への報復も象徴的かつ形式的なものだった。事前に通告し、人的被害が出ないようなポイントに旧式ミサイルを撃ち込んだと報道されている。イスラエルへの報復はそれまでに続けており、イスラエルを物的に窮地に陥れるだけの余力はあると筆者は推測していた。なので、前回のブログでは、そうなった場合は「本気で」米軍が助っ人にはいる場合がありうると心配していた。しかし、ホルムズ海峡に米海軍が集結するなか、イランはエスカレーションを避ける判断をした。イランとしては賢明な判断だ。全世界が胸をなでおろしたに違いない。

 かくして、トランプ政権はイスラエルとイランのカブキ芝居を作り上げた。しかし、この芝居は本当に役に立ったのだろうか?

 少し個人的努力をして情報を追えば、安いカブキ芝居だと誰の目にもわかる時代だ。米国のホワイトハウスと議会両院に対して圧倒的影響力を持ち、今回は米国を意のままに操ったのがイスラエル・ロビーだ。来年中間選挙での勝利に保険を掛ける意図なのか。トランプ氏の真意はわからない。

 トランプ政権は今回の作戦を成功したと考えている。一方で、世界の諸国はどう見るだろうか?筆者は、イランの賢明な判断を評価している。軍部上層部を殺害されたいま、報復を急ぐ必要はない。また態勢を整えて、かれらの戦略を改めて展開すればよいのである。悲観的な見方をすれば、今回の出来事がイランをいよいよ核兵器開発に駆り立てるきっかけとなったとしても、不思議ではない。今回の勝者はイランかもしれない。

 それにしても、こんなに大げさなカブキ芝居はやりすぎだ。なんでもかんでも期限を「2週間」と発言するので、「Two Weeks President」とも呼ばれ始めた。「TACO」(Trump Always Chickens Out)も定着している。米国の威厳を重視するなら、トランプ氏は周囲の慣れにそろそろ気を付け始めるべき時だろう。

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