北大西洋条約機構 (NATO) はワシントンで75周年の式典を開催した。ウクライナ戦争の終結に逆行する2つの大きな過ちを犯した。これらの過ちは、後々の大きな禍根となりそうだ。
過ちの一つは、ウクライナが将来的にNATOに加盟することを一層強調したことだ。これまでのブログで述べたとおり、ウクライナのNATO加盟方針こそがロシアが侵攻開始した核心的な理由であるにも関わらずである。
We fully support Ukraine’s right to choose its own security arrangements and decide its own future, free from outside interference. Ukraine’s future is in NATO. (以下省略)
ワシントンサミット宣言
2008年のNATOブカレストサミットにおいてウクライナの加盟の方針が打ち出された。当時の独メルケル首相や仏サルコジ大統領の強い反対があったが、米国のジョージ・W・ブッシュ大統領が強硬に押し通したと言われている。「かたち」だけから入り、最初は充分な根がない方針であっても、時と共に組織の生命維持作用によって、深く広く根が成長してしまった典型的な例に見える。
もしNATOが軍事的支援をしていなかったとしたら、ウクライナは今日まで戦い続けること到底できなかったに違いない。しかし、だからと言って、ウクライナがロシアを追い出すに足るレベルの支援をNATOや西側が行なってきたわけでもない。このせいで、戦争は長期化し、犠牲者は増え続け、ウクライナの国土はまずます破壊されている。
NATOワシントンサミットの大きな過ちのもう一つは、中国を名指しで強く批判しつつ、実質のある行動は何もとらないことだ。つまり、まさに「吠える」だけであることだ。
The PRC has become a decisive enabler of Russia’s war against Ukraine through its so-called “no limits” partnership and its large-scale support for Russia’s defence industrial base. (以下省略)
ワシントンサミット宣
軍事転用可能な物資の貿易を通して、中国は「decisive enabler」(決定的後援者・支援者) となったと糾弾している。緊張局面では、外交政策の言行一致は重要だ。何もやらない、できないなら、こうした挑発的な非難には良いことがない。いたずらに中国に不快感を与えるだけだ。今回のワシントンサミットでは、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国が招待されており、ここまで言わずとも対中国に対しては十分なシグナルだからだ。
また、ロシアと貿易をしたら何らかの「enabler」呼ばわりされるのか?という点も第三者の観点からは重要だろう。中国であれ、インドであれロシアから大量のエネルギーを購入している。日本もサハリンプロジェクトを手放してはいない。こうしたことは、ロシアへの協力にはならないのか?ということだ。ヨーロッパでさえ、いまだにエネルギーの15%をロシアに依存している (Oil Price.com) と言われている。ロシアを悪魔扱いしているヨーロッパの偽善と言われても仕方ない。
アメリカのネット媒体上では、ウクライナ苦戦の情報が日に日に増加している。ロシアは戦時体制を整え、兵員と弾薬供給を立て直しているので、この持久戦に勝利する構えだ。一方で、NATO及び西側には、勝利する戦略や戦争を終結するシナリオを持っていない。ロシアの主張に真っ向から反する主張を繰り返すだけだ。
最近になってF16戦闘機を供与するなどと言ったことも発表された。政治的なポーズだけだ。そもそもそれを乗りこなすウクライナ人パイロットはいるのか、ウクライナ領内のどの基地に駐機するのか (すぐにロシアからミサイルが飛んでくるだろう)、具体的な成功イメージは湧かない。大きな戦況に対して影響は小さい。
祖国や同盟国のために強い決意を持って、自ら血を流して戦うことを侮蔑する人はいないだろう。NATOや西側はこれとは全く異なる。自分たちの都合の範囲でウクライナの人々に代理戦争をさせているだけだ。どこか絵空事のように軍備や資金を提供するだけだ。西側の多くの国が巨大な財政赤字を抱えながら、この戦争に加担し続けていることは異様でさえあり、西側各国での議会制民主主義の不具合を示している。
アメリカでは、大統領討論会でバイデン氏の執務能力に大きな疑問符がついた。トランプ氏暗殺未遂事件も起きた。どちらが選挙に勝つのか全く推測不能だ。このまま、民主党政権が続けば、現状路線が踏襲され、いつかNATO自体が戦争に巻き込まれるだろう。トランプ氏・共和党が勝利しても、領土的な譲歩とウクライナのNATO参加断念と軍事的中立がなければ、交渉は進まず、解決への道は多難だ。
米国大統領選の結果がいすれでも、我々は第三次大戦になるかどうかの崖っぷちにいると言うほかないだろう。