米国バンス副大統領とヘグセス国防長官がミュンヘン安全保障会議で率直な発言をし、欧州のグローバル・エリートたちを驚愕させた。
- ウクライナの戦争を外交で終結することを最優先目標とする
- ウクライナ東部4州とクリミアを奪還することは現実的ではない
- 米国はウクライナのNATO加盟を支持しない
バイデン前政権とは180度転換した方針だ。誰も言ってこなかった不都合な事実をはっきりと米国が表明したことを聞き、筆者は胸のすく思いだ。
欧州の中の大国である英独仏はいずれも国内基盤が揺らいでおり、声は小さい。対ロ強硬政策のオーナーは、今やEUとNATOだといっても過言ではなかろう。彼らは、グローバル・エリートたちだ。米国民主党と相性が良く、ウクライナの戦争について様々な偏ったナラティブやプロパガンダを広めてきた。
グローバル・エリートたちは、ウクライナの戦争継続を今日の今日まで信じて生きている人たちだ。しかし、残念ながら、彼らは現実離れした有閑貴族で、多くの誤認と幻想を抱いている。
戦況の誤認。前線では、兵士と弾薬が不足し、ウクライナ軍は崩壊の瀬戸際だ。ロシア対ウクライナの軍事的戦いは、ロシア勝利で確定的。
兵力・兵器の誤認。ウクライナは兵力を補充する力を著しく低下させている。西側が兵器・弾薬を仮に送り続けたとしても、それで戦う兵士がいない。トレーニングもできない。兵器の後方整備・補修体制もままならない。そもそも西側で兵器弾薬の意味ある増産をしている国は一か国もなく、送ることができる備えも使い果たされつつある。
ロシアの対応。ロシアは兵力をこの3年間で100万人以上増強している。戦時体制を敷き、兵器弾薬の増産に抜かりはない。多弾頭型超音速ミサイルの開発も進め、実用段階に差し掛かっている。
政策矛盾と不備。ヨーロッパ諸国の天然ガス総輸入の35%を占めていたロシア産天然ガスは、2年かかり今年の年初にやっとほぼなくなった。2022年2月の侵攻開始から3年近くの間、敵に塩を送り続けたことになる。また、経済制裁をしたが、ロシアは中国、インドなどとの貿易を増やし、制裁の効果を中和してきた。
対話や外交努力の欠如。プーチン氏の悪魔化をして、対話を断ってきた。SNSでのキャンセル(ブロック)に似ている。相手と向き合える立場であるのに、それを自ら否定して、自分たちだけのバブルに閉じこもり、様々な現実から遊離し、幻想の中で夢遊病者のように争いを継続しようとしている。
米国は、サルマン皇太子がいるサウジアラビアで、トランプ氏とプーチン氏の首脳会談を準備しているという。2月18日には閣僚クラスが会議を始めるようだ。
欧州首脳たちは、米国の手のひら返しに対して全く準備はなかった。パリで緊急首脳会議を開いたが、軍事的には米国抜きでは何もできないことを確認しあっただけのようだ。「ウクライナの安全保障は全ヨーロッパの安全保障だ」と声高らかに説いてきた欧州各国の夢遊病者に、厳しい現実をつきつけるショック療法で目を覚まそうとしているのがトランプ政権の本当の意図なのだろう。