ウクライナ和平 夢遊病者の終焉と、冷徹なリアリズムの現出

この記事は約3分で読めます。

ウクライナ和平交渉が直面する、5,880億ドルの絶望
ウクライナとロシアの戦争が5年目に入り、国際社会を包んでいたナラティブは劇的な転換点を迎えている。1年前、筆者は欧州の指導者たちを、危機に気づかず破滅へ歩む「夢遊病者」と呼んだ。しかし今、トランプ政権の「ショック療法」によって、彼らはようやく目を覚まそうとしている。その先に待っていたのは、希望ではなく、直視しがたいほど冷徹な現実の「現出」であった。

崩れ去った「加盟」という幻想
欧州の大国やEU官僚たちは、これまでウクライナに対しNATOやEUへの「加盟」という甘い期待を抱かせてきた。しかし、その本音は「二枚舌」と言わざるを得ない。
NATOへの加盟は、ロシアとの直接的な交戦、そして核戦争のリスクを意味する。また、ウクライナのEU加盟は、域内の農業補助金や予算配分を大きく揺るがし、既存大国の権益を脅かす。欧州首脳たちは、ウクライナを「防波堤」として利用しながらも、その「家族」として迎え入れるコストを支払う覚悟は、当初から持ち合わせていなかったのだ。

相互不信の泥沼
交渉を阻むのは、鏡合わせのような「不信感」の対称性である。
西側は「ロシアは約束を破った、信用できない」と叫び、対話を拒絶してきた。一方でロシア側もまた、「ミンスク合意は西側が軍備増強を待つための時間稼ぎだった」というメルケル前独首相らの発言を、裏切りの証拠として握りしめている。
双方が相手を「嘘つき」と呼び合う中で、信頼に基づく合意は極めて困難だ。今求められているのは、信頼など不要な「力による強制力」を背景とした、冷徹なディールだ。

「5,880億ドル」とAIブームの影
そして、最も絶望的な現実は「お金」の問題だ。世界銀行等の最新推計(2026年2月)によれば、復興コストは5,880億ドルに達した。これはウクライナのGDPの約3倍に匹敵する数字である。
悲劇は、この巨額の資金を貸せる者が、もはや世界に見当たらないことだ。西側先進国は自国の膨大な公的債務に喘ぎ、米国の利払い費は国防予算を上回ろうとしている。かつて復興特需を期待した民間資金も、もはや泥沼の戦地には向かない。何兆ドルもの投資マネーは今、爆発的なリターンが期待できる「AI産業」へと、デジタル・ゴールドラッシュさながらに向かっている。

ゼレンスキーの苦渋と「帰還」の壁
この状況下で、ゼレンスキー大統領に課せられた最後の使命は、もはや「勝利」の定義を書き換え、国家存続のための苦渋の決断を下すことだろう。戦火を止め、国外に逃れた600万人以上の避難民を呼び戻し、焦土と化した祖国の復興に着手する。それ以外に、民族が生き残る道はないからだ。
しかし、その現実性もまた険しい。国民に「妥協」を説得するのは政治的自死に等しく、電力や教育が崩壊した土地に、欧州での生活を築き始めた若者たちがどれだけ戻るだろうか。国家を再建するための「人」という資源が失われつつある今、復興の号令は空虚に響く危うさを秘めている。

期日を過ぎた妥協
インフラが破壊されるたび、ウクライナの「再生」の可能性は物理的に削り取られている。これは、期日をとうに過ぎても妥協を拒んできた結果だ。
「正義」という名のナラティブは、日々積み上がる負債と、AIに吸い取られる投資マネーの前では無力である。夢遊病者たちがようやく目を開けたとき、そこにあったのは、空っぽの金庫と、変わり果てたウクライナ国土の姿だった。

われわれは今、綺麗事の外交が終わり、剥き出しのリアリズムが支配する時代への突入を目撃している。指導者が下す「平和という名の苦い薬」を、世界はどう受け止めるのか。この残酷な結末から国際政治の真実を学ぶべきだ。

タイトルとURLをコピーしました