5月14日、北京の人民大会堂。習近平はトランプに向かって、台湾問題は米中関係で「最も重要だ」と述べた。しかし米側の発表に台湾への言及はなかった。この非対称性が、今の米中関係の本質を映している。

アメリカの対中戦略には170年変わらない通奏低音がある。1853年、ペリーが日本に来たのは中国への航路を確保するためだった。1899年の門戸開放政策は中国市場へのアクセスを国家戦略として明文化した。1971年のニクソン訪中では台湾が取引のカードになった。今回の会談でも本質は変わっていない。貿易・経済協力を前面に出し、台湾問題は曖昧なまま棚上げする。アメリカにとって台湾は「簡単には切れないが、切れないわけでもないカード」だ。
ただし今回は、中国が上手だった。習近平は「米中の建設的な戦略的安定関係」というフレーズをトランプに呑ませた。トランプ自身が先に「中国と協力することでアメリカは強くなる」と言い出していたのだから、そこから逸脱するわけにはいかない。自分の言葉に逆に縛られた形だ。カードの非対称性も際立つ。レアアース・レアメタルは米軍の兵器製造に不可欠であり、習近平の訪米という外交カードもある。トランプが台湾への武器売却を進めれば、習近平は訪米を取りやめ、レアアース輸出を再規制できる。それはアメリカの中間選挙にも響く。「カードは習近平の方が多い」という評価は、現時点では正確だ。
中国にとって台湾はカードではない。1949年の国共内戦で蒋介石が逃げ込んだ台湾を統合し、「中華人民共和国の革命を完結させる」というイデオロギー的な悲願だ。交渉の余地はない、譲れない一線である。この点については前稿で詳しく論じた。一方アメリカは、経済的相互依存を深めながら中国のアメリカへの依存度を高め、再び形勢逆転を図る戦略を描いているように見える。しかし中国はもはや「アメリカが必要」という局面を脱しつつある。この自信が、今回の会談での習近平の余裕に表れていた。
「台湾有事で日本はどうなるか」という問いは、そもそも設問が間違っている。台湾の統治主体が変わることで日本に生じる実害は、従来の議論が示唆するより大幅に薄い。シーレーン封鎖論は過大評価であり、半導体サプライチェーンはすでに分散が進んでいる。この点も前稿で検証した。日本にとっての本質的なリスクは「台湾が中国になること」ではなく、中国が力を背景に東シナ海での優越的地位の主張を着実に強めているという長期趨勢だ。それは台湾の統治主体とは独立した、すでに進行中の問題である。
そして、もう一つの問いも間違っている。「アメリカは台湾を守るか」ではなく、「アメリカにとって台湾は常に手段であり、目的ではなかった」という歴史的事実を直視することだ。1971年のニクソン訪中でも台湾は取引のコストとして支払われた。今回の北京会談でも、その構造は変わっていない。正しい設問はこうだ——「米中の構造的競争の中で、日本はどんな急所を握れるか」。中国の急所、アメリカの急所、双方に対して能動的に働きかける戦略を持てるか。その問いに答えを持っていないことこそ、北京の会談が日本に突きつけた本当の課題だ。
