「台湾有事は日本有事」を解体する

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2026年5月14日、北京の人民大会堂。習近平はトランプに向かって、台湾問題は米中関係で「最も重要だ」と訴えた。「処理を誤れば両国は衝突する」とも言った。だが米側の発表に台湾への言及はなかった。この非対称は、多くの示唆を与えている。

台湾問題を「最も重要」と位置づけているのは中国であって、アメリカではない。ましてや日本でもない。にもかかわらず、日本の言論空間では「台湾有事は日本有事」というフレーズがさも自明の前提のように流通し続けている。本当にそうなのか。冷静に検証したい。

シーレーン封鎖論という神話

最もよく聞く議論は、台湾が中国に統治されればバシー海峡が封鎖され、日本のエネルギー輸送が断たれる、というものだ。バシー海峡とは台湾島南端とフィリピン北端の間に位置する幅約100キロの海域で、中東から日本へ向かうタンカーの主要ルートにあたる。ここが塞がれれば「日本は終わり」という論調は、安全保障の議論で繰り返し登場する。

だがそもそも、バシー海峡が完全に通行不能になるというシナリオ自体、単純すぎる。台湾が中国に統治されたとしても、南側はフィリピン領海であり、日本はフィリピンとの外交的取り決めによって通行を確保できる余地は十分にある。また仮に、より南のロンボク海峡(インドネシア)を迂回するルートを取らざるを得ない事態になったとしても、航程は片道で1000カイリ程度の増加にとどまる。海洋政策研究財団(笹川平和財団)の専門家による試算(2014年)では、このルートへの切り替えは「大きな経済的損失とはならない」と結論づけている。負担にはなろうが、致命的とは程遠い。
(ただしこの試算は原油タンカー(VLCC)に限った分析であり、定時運航が求められるコンテナ船の遅延が生産ラインに与える影響は別途存在する点は付け加えておく。)

なお、より深刻な事態——中国が第一列島線と第二列島線(伊豆諸島・小笠原諸島からグアム、パプアニューギニアへと至る仮想ライン)の間をAnti-Access/Area Denial(接近阻止・領域拒否)海域として実効支配しようとするシナリオ——はどうか。これは確かに極めて深刻だが、台湾が中国に統治された直後に自動的に生じる話ではない。中国統一の先の海洋膨張戦略全体に関わる、別次元の将来リスクだ。台湾の統治主体とは切り離して論じるべき問題だ。

半導体も、空母も

「台湾の半導体が止まる」という議論も、すでに状況が変わりつつある。TSMCは熊本に工場を建設し、米国アリゾナへの展開も進んでいる。台湾の政治的地位とサプライチェーンの分散は、並行して進む別の話だ。

「米空母機動部隊がグアムまで後退を余儀なくされる」という議論に至っては、根拠がさらに薄い。これは中国のAnti-Access/Area Denial戦略——米軍を第二列島線の外に追い出したいという「中国側の希望」——を、あたかも実現した事実として語ることから生まれた議論だ。1996年の第三次台湾海峡危機で、クリントン政権は2個空母機動部隊を台湾海峡に展開させた。横須賀を拠点とする米軍が有事にどこで作戦するかは、台湾の統治主体とは別の問題であり、中国の「希望」と現実の間には依然として大きな距離がある。

唯一の直接的な影響

台湾の統治主体が変わることで日本に直接生じる具体的な問題を一つだけ挙げるなら、漁業だ。日台漁業協定が消滅し、尖閣周辺の海洋秩序に中国が直接関与してくる。ただしこれも、中国漁船による違法操業はすでに深刻な問題として存在しており、統治主体の変化による「悪化の程度」という話にとどまる。

台湾人が望むもの

台湾の人々が自由と民主主義を守りたいと思うことへの共感は本物だ。しかしその感情と、「だから日本に実害がある」という命題は、別の話である。

そして、その台湾自身の民意はどうか。国立政治大学(台湾)が1992年から継続する長期調査によれば、「台湾人」と自認する人は1992年時点で17.6%に過ぎなかったが、2025年には約65%に達した。「中国人」と自認する人は2%台まで低下している。統一を積極的に望む層は多くても13〜14%。独立志向の深さは、30年という時間をかけて台湾社会に根を張っている。「台湾は中国のものになりたがっている」という前提自体が、すでに現実と乖離している。

問いを立て直す

日本にとって残る本質的なリスクは「台湾が中国になること」ではなく、中国が力を背景として東シナ海での優越的地位の主張を強めているという長期趨勢だ。それは台湾の統治主体とは独立した、すでに進行中の問題として、正面から向き合う必要がある。その趨勢に日本がどう向き合うか——後編ではその文脈から、中国の台湾へのこだわりとアメリカの役割を考える。

なお、昨年11月に存立危機事態 全く意義がない国会審議という記事を書いた。元議員の岡田氏が高市氏に対して当時行った質疑の論考。あれ以来、日中関係は冷え切っている。どんな意義、誰の得になったのか?国会審議のレベルアップをしてほしい。また、国際的な常識では、日本の基地から出撃した米軍がどこかで武力行使をしたら、相手からは日本も敵国。少なくとも日本にある米軍基地やそれを支える施設について反撃することは正当な行為である。それ以上でも。それ以下でもないことが出発点だ。

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